なぜ睡眠が重要なのか?
受験生にとって、学習時間は限られた貴重な資源です。つい学習時間を確保するために睡眠を削ってしまうこともあるでしょう。しかし、実際には睡眠が学習効率や成績に大きな影響を与えることが、科学的研究によって明らかになっています。今回は、睡眠と学習効率の関係について深掘りし、どのように睡眠を活用すれば学習の成果を最大化できるのかを解説します。
後述しますが、受験生を含む若者の睡眠時間は7〜9時間の睡眠が推奨されています。
勉強時間を踏まえると、6~7時間程度の睡眠がバランスがよいと言えるでしょう。
記憶の定着と睡眠の役割
学習の基本は「覚える」ことです。しかし、覚えるためにはただ勉強するだけでは不十分です。脳が学習内容を長期記憶として定着させるには、睡眠中に行われる特定のプロセスが欠かせません。そのプロセスは以下の通りです。
- 学習内容の整理と統合
一日の中で学んだ内容が、関連性のある記憶として結び付けられます。 - 不要な情報の削除
重要ではない情報を削除し、脳内の容量を確保します。 - 記憶の強化
特に深い眠り(ノンレム睡眠)の間に、短期記憶が長期記憶として保存されるプロセスが進行します。
ノンレム睡眠は一般的に90分程度のサイクルで繰り返されるとされています。
これらのプロセスを裏付ける研究として、ウォーカー博士(Walker, 2009)の研究が挙げられます。彼の研究では、十分な睡眠を取った被験者は、取らなかった被験者に比べて情報の定着率が大幅に高いことが示されています。
注意力と集中力の維持
睡眠不足は、注意力や集中力を大幅に低下させます。ある研究では、6時間以下の睡眠を2週間続けると、24時間起き続けた状態と同じくらい認知機能が低下することが示されています(Van Dongen et al., 2003)。注意力が低下すれば、学習効率も著しく悪化します。
睡眠不足が学習に及ぼす具体的な影響
- 記憶力の低下
短い睡眠時間では、新しい情報を記憶する力が減少します。たとえば、ギャイス(Gais & Born, 2004)の研究では、睡眠を十分に取ったグループと睡眠不足のグループで記憶テストを実施したところ、前者の方が約40%も高いスコアを記録しました。 - 判断力の低下
受験勉強では、単に暗記するだけでなく、複雑な問題を解くための判断力や柔軟な思考力も必要です。しかし、睡眠不足になるとこれらの能力が著しく低下します。その結果、ミスが増えたり、正解にたどり着くまでに余計な時間がかかったりすることがあります。 - 感情面への悪影響
睡眠不足はストレスや不安感を増大させるため、モチベーションを保つのが難しくなります。また、イライラしやすくなり、自己管理が疎かになることもあります(Dinges et al., 1997)。
理想的な睡眠時間と習慣とは?
- 必要な睡眠時間を確保する
高校生や大学受験生の場合、7〜9時間の睡眠が推奨されています(Hirshkowitz et al., 2015)。短時間睡眠で頑張るよりも、適切な睡眠時間を確保した方が長期的な学習効率は向上します。 - 規則正しい睡眠スケジュール
毎日同じ時間に寝て、同じ時間に起きることで体内時計を安定させましょう。不規則な睡眠スケジュールは、眠りの質を低下させ、日中のパフォーマンスに影響を及ぼします。 - 質の良い睡眠を取る
量だけでなく質も重要です。質の良い睡眠を得るためには以下のポイントに注意してください
- 寝る前のブルーライトを避ける
→スマートフォンやパソコンの画面を寝る直前まで見るのは避けましょう。 - 就寝前のリラックス
→軽いストレッチなどでリラックスする時間を設けると良いでしょう。 - 寝る直前の食事を避ける
→消化活動が活発な状態では眠りが浅くなります。
効果的な学習と睡眠の組み合わせ方
- 昼寝を活用する
短時間の昼寝(20〜30分)は、注意力や記憶力をリフレッシュする効果があります(Mednick et al., 2003)。ただし、昼寝が長すぎると逆に眠気が残ることがあるため、タイマーを設定すると良いでしょう。 - 朝型学習を心掛ける
人間の集中力は朝の方が高い傾向があります。夜遅くまで勉強するよりも、早めに寝て朝早く起きて勉強する方が効果的です(Pilcher & Huffcutt, 1996)。新しい知識を吸収したり、理解を伴う問題を解くには、朝の時間帯が最適です。 - 睡眠直前の復習
寝る前に学んだことは、記憶に残りやすいことが示されています。したがって、暗記科目や公式の確認など、記憶の定着が重要な内容を睡眠前に復習することで、学習効率を高めることができます。タミネンら(Tamminen et al., 2010)の研究では、睡眠直前に行った学習は、翌日の記憶テストで特に高い効果を発揮したと報告されています。また、ディーケルマンとボーン(Diekelmann & Born, 2010)は、睡眠が学習直後の記憶を強化する役割を持つと指摘しています。
補足:朝型学習と睡眠直前復習の使い分け
「朝型学習を心掛ける」と「睡眠直前の復習」は、それぞれは異なる目的と時間帯に特化したアプローチです。
- 朝型学習
理解や思考を必要とする科目(数学や理科)に向いています。朝の集中力が高い時間を活用して、柔軟な発想で取り組みましょう。 - 睡眠直前の復習
暗記や情報の定着が目的です。夜はその日の学習内容を振り返り、暗記科目や重要ポイントを確認する時間に適しています。
これらを組み合わせることで、効率的に知識を吸収し、定着させることが可能です。
まとめ
6~7時間時間程度の睡眠は、学習効率と学習時間のバランス的に優れています。これは、(Hirshkowitz et al., 2015)での研究と、ノンレム睡眠の作用が学習にとって有効に作用するためです。ノンレム睡眠(深い眠り)の間に、短期記憶が長期記憶として学習した内容が定着していきます。レム睡眠の時に起きると目覚めが良いので、7時間前後を目安に個人の感覚で調整することをおすすめします。
睡眠不足で無理をして勉強するのではなく、適切な睡眠時間と質の良い眠りを確保することで、学習効率を大幅に向上させることができます。大学受験という長期戦を勝ち抜くためには、心身の健康を保ちながら効率的に学ぶことが何より大切です。ぜひ、自分に合った睡眠習慣を見直し、学力向上を目指していきましょう!
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睡眠時間をしっかりとるには、起きている時間に効率よく学習をすすめることが必要になります。
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参考文献
- Walker, M. P. (2009). Why We Sleep: Unlocking the Power of Sleep and Dreams. Scribner.
- Van Dongen, H. P. A., Maislin, G., Mullington, J. M., & Dinges, D. F. (2003). “The cumulative cost of additional wakefulness: Dose-response effects on neurobehavioral functions and sleep physiology from chronic sleep restriction and total sleep deprivation.” Sleep, 26(2), 117-126.
- Gais, S., & Born, J. (2004). “Declarative memory consolidation: Mechanisms acting during human sleep.” Learning & Memory, 11(6), 679-685.
- Hirshkowitz, M., et al. (2015). “National Sleep Foundation’s sleep time duration recommendations: Methodology and results summary.” Sleep Health, 1(1), 40-43.
- Mednick, S. C., Nakayama, K., & Stickgold, R. (2003). “Sleep-dependent learning: A nap is as good as a night.” Nature Neuroscience, 6(7), 697-698.
- Pilcher, J. J., & Huffcutt, A. I. (1996). “Effects of sleep deprivation on performance: A meta-analysis.” Sleep, 19(4), 318-326.
- Dinges, D. F., et al. (1997). “Cumulative sleepiness, mood disturbance, and psychomotor vigilance performance decrements during a week of sleep restricted to 4–5 hours per night.” Sleep, 20(4), 267-277.
- Tamminen, J., Payne, J. D., Stickgold, R., Wamsley, E. J., & Gaskell, M. G. (2010). “Sleep spindle activity is associated with the integration of new memories and existing knowledge.” Journal of Neuroscience, 30(43), 14356-14360.
- Diekelmann, S., & Born, J. (2010). “The memory function of sleep.” Nature Reviews Neuroscience, 11(2), 114-126.